映画の記事はネタバレつきです。あしからず。

by civaka

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』村上春樹

久しぶりに新刊本を読んでしまった。

娘の部屋を片付けていたら、置いてあって、何気なくみていたら、読み始めてしまった。
村上春樹の文章は読みやすい。
そして、でてくるものもみんな現代のものだから、時代解釈も説明もなく、すんなり理解できる。だから、わかりやすい。彼の小説が、文学に当たるかどうかはわからない。でも、日本近代文学のように、時代設定や細かいものを調べなくて良くて、そしてやっぱりエリートの苦悩が描いてあるのは、文学何だろうか。ぞくにいう教養小説って者
やつだろうか。
ただ、セックスに関したきょ述が、まいどはっきり描かれてるのがねえ。
でも、それを抜いちゃうと、物語も成り立たなくなるし。
今一番人気のある作家さんではあるなぁ。

高校時代から、仲の良かった数人のグループでできた友人アカ、アオ、シロ、クロの全員から、ある日いきなり絶好を言い渡された主人公の多崎つくるは、自殺を考えながら、死人のように、大学生活を送る。
そんな彼がある日、大学で初めて、灰田という学生と友人になる。
けれど、灰田もまた、彼のもとからいなくなってしまう。
数年後、社会人となったつくるの新しい恋人沙羅は、つくるに、長いこと謎のままにしていた友人との絶交の理由を明らかにすることを、提案する。
かつての4人の友人に会うために、つくるは、名古屋そして、フィンランドへと、巡礼の旅に出る。
そこで明かされた真実は、それまでの、つくるの評価を180度も塗り替えていく。

面白かった。

後半の旅の部分はまさに、今はやりの自分探しの旅そのものですね。
前半では、友人もなく、なんの魅力もないつまらない人間という、つくる自身の自己評価をそのまま読者は、受け入れて、読んでいる。
けれど後半、つくるという人物の評価が、かつての友人たちによって、塗り替えられていく。ハンサムで、優しくて、落ち着いていて、そこにいるだけで、仲間みんなの心をおちつかせるような存在。そして、孤独にもたえられる強い人。それが、友人から見たつくるの評価。
人の評価というものは、自己評価とはまったく違うものだったりする。と、最近、本屋で立ち読みした本に書いてあったけれど、まさにそんな感じ。

人とかかわっていても、普段大概の人は他人による自己評価とか、友人が自分をどんなふうにみているかなんて、聞くことはないけれど、一度ちゃんと聞いてみて、自分というものを見つめなおすのもいいかもしれない。

でもこれ、結構というか、かなり勇気がいるんだよねぇ。

つくるは、友人に流されることなく、自分の判断で、自分の人生をつかみ取っていくし、無理に自分を曲げたり、迎合したりして友人を作るようなことはしない。仲間が名古屋にとどまろうと相談している時でも、自分一人だけでも、東京に出ていく。仲間と離れるつらさや、東京にでていく怖さよりも、自分の望む人生を生きることを優先する。確かに、強い。

友人もなく、生気のない人物象をイメージさせる最初の描かれ方に、読者はついひっかかてしまうけれど、読み進めていくうちに、つくるという人物像が、じょじょに変化していく。

そして、恋人の謎にも、たちむかっていくラストで終わる。
彼女とは、結婚出来たのかなぁ。
読んだ人はみんな、気になるでしょうね。

さて、ここからは、私の推理です。
読み終わっても謎の残る、灰田との関係や、シロの事件はどういうこと?

でもね。
カラフルな人たちといいながら、出てくる色は、
あか、あお、みどり
そして、
しろ、くろ、灰色

これはまさに、絵具の色ではなく、光の色です。
赤青黄色が色の三原色ですが、

赤青緑は、光のの三原色です。

色の三原色は三つ合わせるとかぎりなく、黒に近づきますが、
光の三原色は、三つ合わせると、ほぼ白。
というか、色のない状態。
多崎つくるの「色彩をもたない」とはまさにこのことで、
多崎は、多彩に似ている。
色をもたないというより実は、すべての色をもっているからこその無色。
実は、すべての色を持っている。

灰田の父親が出会った緑川という男。
人のオーラというか、持っている色を見ることのできる力をもった男。
彼に出会い、その後ひとりで死んだ緑川から、灰田の父親は、死の期限は、もらわなかったけれど、緑川の死んだ瞬間に、ヒトの色を見ることの出来る力をもらったのかもしれない。
そして、父親の死んだ時に、灰田もまた、父親から、ヒトの持つ色を見る力をもらったのかもしれない。

灰田は、たぶん、同性愛者。
つくるは友人と思っていたけれど、灰田は、つくるのことを好きだった。
お互いの家を行き来して、毎週つくるの家にきて、一緒にご飯を食べたりする関係は、友人にしては、濃密すぎる。読んでいて、ちょっと、不思議だった。男の友人同士でもこんなに濃密なつきあいをするものなんだろうか。と。
でも、これが、恋人同士であれば、不思議じゃないわけで。
友人として付き合ってはいたけれど、つくるを好きな灰田はある夜、たえきれずに、つくるの寝ているすきに彼の体に触れてしまう。深く眠りこんでいたつくるは、それが、現実なのか、夢なのかわからない。
けれど、つくるは同性愛者でないし、自分の思いが一方的であるままに、これ以上つくるとかかわらる事のつらさに、灰田は、大学を去ってしまう。
父親から、人の色を見ることのできる力をもらった灰田は、一度だけ、つくるのもつ色をみるために、戻ってくる。灰田の見たつくるのオーラの色は、どんな色だったのか?
つくるの持つ色は、たぶん、すべての色をもった極彩色のオーラだったのに違いない。
つくるのオーラをみて、納得しつつ、灰田は、永遠につくるのもとを去っていく。

そしてもうひとつ。
シロの死の謎。

灰田もクロもつくるが好き。
そして、シロもまた、つくるが好きだったはず。
つくるに会いたくて、シロはある日仲間にないしょでこっそりと、つくるにあうために、東京に向かう。けれど、つくるに会う勇気も告白する勇気も出ないでいるうちに、シロは、東京のまちなかで、誰ともわからない男に襲われ、妊娠してしまう。
名古屋に帰って、クロにこのことを打ち明ける。
けれど、つくるを好きなクロは、つくるをシロにとられたくない。
このことがつくるに伝われば、つくるとシロは、お互いの思いを知り、恋人同士になってしまうかもしれない。
つくるは、妊娠してしまっていても、シロをうけいれるだろう。
そう考えたクロは、仲間に、というか、男であるアカとアオにつくるを切ることを提案する。
こんな時、男は、女の考えていることとか、事情なんて、わからないからね。
実際どこまで、クロがシロに優しくしたか、面倒みたのかは、わからない。
クロにいろいろ言われているうちに、シロは、わけがわからなくなって、おかしくなってしまう。
けれど、やがて、自分がクロに囲まれ、おいつめられているような気がして、クロと離れるために、シロは、名古屋からでて、浜松へと、一人で引っ越していく。
一人で暮らし、一人で自立して生きていけるようになつたシロは、こんどこそつくるに会いたいと、思ったかもしれない。
けれど、シロが浜松にいることを知っているのは、このとき、クロだけ。
シロを殺したのは、もしかすると、クロかもしれない。

面倒見がよく、優しい女性、という描かれ方をしているけれど、でも、本当のところはわからない。

シロ、クロ、灰色。
どれも、色というより光の当たった時に出てくる影。
三人ともつくるが好きで。
つくるという光にあたった時、シロは、白そのもの。
でも、つくるはシロが、すきだから、クロは、影になるしかなくて。
クロという名前も、闇とか、ダークなイメージを表しているわけで。
シロ、クロ、ハイイロという名前だけで、人物たちの人間性と、物語における役どころを表現してあるわけで。
それを色だけで、読み取るのは、かなり難しいんじゃないかと。
思われます。

つくるを好きなクロは、つくるをシロにとられたくなかった。
自分のものにならなくても、いいから、つくるをとられたくなかった。
だから、シロを殺した。
シロの真実を知っているのは、クロだけ。
だから、シロを殺したクロは、フィンランドに逃げた。
夫のフィンニンド人をはたして愛していたかは、謎。
だって、そのときでも、クロは、つくるがすきだった。

後半、つくるが、フィンランドにクロに会いに行った時の、クロの驚き方は、ちょっと、かなり尋常じゃなかった気がして、読んでいて、本当に不思議だった。
それは、絶好していたつくるが、わざわざこんな遠いところまで、十数年という長い時のはてにきたからだけじゃなくて、自分がシロを殺した事実をどうつくるにごまかして伝えようと、一瞬頭の中で、模索しまくったからじゃないかと、思う。

その時語られた、シロの話は、実際どこまで、本当なのか。
それはもう本当に永遠に分からない。

ただ、アカもアオもつくるも男だから、騙されたけれど、このあと、この話をつくるが沙羅にした時、沙羅は、女のカンで、その真実を感じ取るかもしれない。

だから、物語のラストに、つくるがさらに自分の聞いたクロの話を沙羅に語るシーンはない。
その手前で終わってしまう。
沙羅がこの話をつくるから聞いた時、なんというのか。
この時の真実は、とてもこわい。
それはもう、読者の想像にまかされてしまった。

と、ここまで、私なりに、考えてみました。
こうなると、ミステリーですね。w

まあ、村上春樹の話はみんな、どこかに、謎が残っていて、ちょっとわかりにくいけど、それが、魅力でもあるわけで。


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by civaka | 2013-05-25 08:38 | 読書ノート | Comments(0)